NEW

tamura

証券口座の不正アクセス被害が5710億円に迫る

ネット証券を中心に広がる証券口座の乗っ取り被害が、依然として深刻な状況にある。金融庁が2025年7月7日に発表した調査によれば、2024年度下半期(2024年10月〜2025年3月)に確認された証券口座の不正利用による被害額は、累計で5710億円に達したという。これは前年度の同時期を上回る高水準であり、証券業界全体にとって看過できないリスクとして再び注目を集めている。

この問題の背景には、個人投資家のオンライン取引依存の高まりと、サイバー攻撃手法の巧妙化がある。とくに「なりすまし」による不正ログインや、SMS・メールを使ったフィッシング詐欺が急増しており、ID・パスワードだけでは防ぎきれないセキュリティの限界が露呈している。ネット証券の一部では、ワンタイムパスワードや生体認証などの多要素認証を導入しているものの、ユーザー側のセキュリティリテラシーに依存する部分も大きく、完全な防御には至っていない。

金融庁は、今回の被害総額の公表にあわせて証券会社各社に対し、以下の対策を徹底するよう要請している。

  • 多要素認証の原則導入
  • 異常な取引の即時アラート通知体制の整備
  • 顧客に対する定期的な注意喚起と情報提供
    また、証券会社が不正取引の被害にあった顧客に対して、一定の補償対応を行っているケースもあるが、補償基準は各社で異なり、被害者が泣き寝入りするケースも存在する。

近年では、高齢者を狙った乗っ取り被害も確認されており、ITに不慣れな層がターゲットになりやすい状況だ。特に、スマートフォンを使った認証アプリの導入をためらうユーザーも多く、こうした層へのアプローチが喫緊の課題とされる。

ネット証券を含む金融機関全体がデジタル化を加速するなかで、セキュリティ体制の強化は事業の根幹に直結するテーマとなっている。投資家側も「自分の口座は自分で守る」という意識が求められており、パスワードの使い回しを避ける、定期的に変更する、多要素認証を積極的に利用するといった基本的な対策が不可欠だ。

今回明らかになった5710億円という被害額は、数字以上に深刻な警鐘といえる。証券会社、投資家、そして行政が三位一体となった対策が、いま強く求められている。