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フリーとWewillに学ぶ「令和のスタートアップガバナンスとバックオフィスにおける統合型BPaaSの必要性」

2025年10月22日、フリー株式会社と株式会社Wewillよるラウンドテーブルが開催されました。スタートアップのバックオフィス運営における課題と解決策について議論が交わされた。

本イベントでは、株式会社Wewill代表で税理士の杉浦直樹氏、フリー株式会社フリー会計BPaaS事業部 部長の小野氏、そしてフリー Midmarket事業部 事業部長の田中氏が登壇し、令和のスタートアップが直面するガバナンス強化とバックオフィス改革の必要性について、実践的な知見を共有した。

登壇者紹介

杉浦直樹氏(株式会社Wewill 代表取締役

大学卒業後、日本オラクルにてERPパッケージ導入をはじめ多くの案件に携わる。同社退 社後、米国スタートアップ企業を経て税理士資格取得。その後、税理士法人Wewill、株式会 社Wewillを設立。バックオフィスを構造から革新するため、自身もスタートアップとしてバックオ フィスのインフラサービス化を目指す。挑む中小企業プロジェクト主催。J-startup Central 選出。

小野友彰氏(フリー株式会社 フリー会計BPaaS事業部 部長

KDDIを経てfreeeに入社。アドバイザー事業開発、NTT東日本とのOEM契約締結を実現したアライアンスを牽引。 現在は法人事業開発の責任者として、M&AのOMIやBPaaS開発など、次世代の事業基 盤構築を統括。多様なキャリアパスと事業フェーズを経験している事業開発のプロフェッシ ョナルとして、常に新しい価値創造を追求し続ける。

田中彼方氏(フリー株式会社 フリー Midmarket事業部 事業部長

パーソルキャリア(旧インテリジェンス)にて、経営層・CxOなど、エグゼクティブポジションの採用支援を長年にわたり担当。 その後、ヘルスケアテックのスタートアップでの事業開発を経て、2020年freeeに入社。上場企業チームの立ち上げを成功させ、2022年より中堅大手企業専任チームの営業部長として事業を推進。 現在はプライムセグメント事業部事業責任者として、スタートアップ及びIPO準備企業、上場企業などの成長企業を中心に担当。

背景:バックオフィスへの投資とキャリア形成の課題

Wewillが実施した2つの調査から、経営者の6割がバックオフィスを「コストセンター」として認識し、5割が事業成長への重要性を認めながらも、実際に投資しているのは3割にとどまることが判明した。

同時に、事務職の多くがキャリア形成の難しさと市場価値への不安を抱えている。杉浦氏は、この2つの課題をスタートアップの視点から議論する必要性を強調した。

スタートアップのバックオフィスの特徴

スタートアップのバックオフィスには「多様で複雑で速い」という特徴がある。

創業初期からVCや大型補助金など多様な利害関係者を抱え、ガバナンスやコンプライアンスの準備が必要だ。

事業の急速な拡大に伴い、バックオフィス体制も短期間でスケールアップが必要で、株主間契約や種類株式など高度な専門知識も創業時から求められる。浦氏は「小規模事業者と異なり、スタートアップは創業時から複雑な資本政策や統制環境の整備が必須」と指摘した。

成長フェーズごとの課題

プレシード〜シード期は創業者が全業務を担い、業務の属人化とオペレーション構築の困難さに直面する。適切な支援者との出会いの運に左右される「ガチャ問題」がある。

シリーズA〜B期には急成長で初期メンバーが限界を迎え、CFO参画時の体制刷新と、退職による知見流出のリスクが生じる。ショートレビュー〜IPO期には内部統制構築と監査法人・証券会社からの厳格な要求、さらに売上成長の同時実現という「鬼ガス」状態に陥る。

IPO準備企業の「ブレーキとアクセル」問題

田中氏はIPO準備段階の最大の課題として「ブレーキとアクセルの両立」を挙げた。

オルツ事件などの影響で監査法人の統制要求が厳格化し、グロース市場の上場維持基準が時価総額100億円に引き上げられた結果、企業は内部統制強化と売上成長を同時に実現しなければならない。

CFOが管理部門長を兼務し現場とトップライン双方を見るケースが多く、極めて多忙な状態だ。杉浦氏は「CFOに求められる要件が短期的に変化し続け、オルツのような事件や上場維持基準の変更のたびに役割が変わっていく」と現状を語った。

創業期の「ガチャ問題」と税理士の役割

小野氏は、創業期に適切な支援者と出会えるかがその後の成長を大きく左右すると述べた。

フリーは創業直後のユーザーに事業内容や目指す方向性に合った税理士とのマッチングを積極的に行っている。

杉浦氏は「最近の若い税理士、特にフリーを使う税理士は、税務だけでなく請求書発行から売上計上まで業務オペレーション構築を支援する」と評価した。ただし、業務基盤構築に踏み込める税理士と出会えなければ、成長につながる基盤が作れないリスクがある。

田中氏は「税理士にも得意領域があり、成長フェーズの前半が得意な方もいれば後半で力を発揮する方もいる」と述べ、フリーが出会いの場を提供する意向を示した。

杉浦氏は「税理士業界も流動的になり、『ご卒業ですね』という会話が10年前より増えた。これはスタートアップだけでなく、専門家側も流動的になっている」と業界の変化を語った。

属人化の罠:頑張り屋さん問題

杉浦氏はスタートアップ特有の問題として「頑張り屋さん」の存在を指摘。

初期に頑張ってくれたバックオフィス担当者が、フェーズ変化に伴い属人化した業務を手放せず、抵抗勢力になってしまう。これは本人にとっても不幸な事態だ。

初期とIPO準備期ではフェーズが大きく異なるため、この移行をどう乗り越えるかが課題となる。

統合型経営プラットフォームの重要性

田中氏はフリーの「統合型経営プラットフォーム」思想を説明した。

企業の成長フェーズに応じて必要なプロダクトを選択できる設計で、アーリーフェーズではスタータープランから始め、請求書の量や従業員数の増加に応じてモジュールを追加できる。

杉浦氏は「昔は初期のシステムを途中で入れ替える必要があったが、今は最初に選んだもので育てていけるのが理想。フリーの場合、モジュール追加だけでなく会計システム自体が成長していく」と評価した。

ワークフローと承認環境の段階的構築

杉浦氏は統制の本質はワークフローと承認権限の設定にあると指摘した。「ショートレビューから統制を作るのでは遅い。便利な会計帳簿として使いながら徐々にワークフローを育てていく。請求書発行で売掛金が立ち、支払承認で買掛金が立つ『発生源入力・シングルインプット』の思想。これは本当にERP(企業資源計画)だ」と述べた。

小野氏は「我々のプロダクトは、入り口で入力したら自動的に最終仕訳まで生成されるモデルを作っている。転記や人手を挟むことを極力避ける思想だ」と説明。

杉浦氏は「IPO準備期には『この支払いは何を根拠にしているのか、誰が承認したのか、承認権限はどうなっているのか』が厳しく問われる。だからこそ、初期から統制を意識したシステムを選ぶことが重要。ただし、創業時にそこまで意識するのは難しい。これが大きな課題だ」と語った。

BPaaSによる外部リソース活用の戦略

杉浦氏は成長フェーズに応じた外部リソース活用の戦略を提示。ショートレビュー前は徹底的な外部化を推奨し、ショートレビュー後は内製化と外部リソースの併用を提案している。WewillはBPaaS(Business Process as a Service)という形で、企業の成長段階に応じた柔軟なバックオフィス支援を提供している。

バックオフィスを「投資対象」として捉え直す

ラウンドテーブルを通じて、スタートアップのバックオフィスは単なるコストセンターではなく、成長を支える重要な戦略的投資対象であることが明らかになった。

創業期から適切なシステムと支援者を選び、成長フェーズに応じて柔軟に体制を進化させていくことが、持続的な成長の鍵となる。

フリーとWewillは、それぞれの強みを活かしながら、スタートアップの成長を支援し続けている。