TOTO田村社長が語る関税時代のグローバル供給戦略

TOTO株式会社が、トランプ前米大統領の再出馬に伴い再燃する関税リスクに対し、「生産のグローバル分散」で対応を強化する姿勢を示した。2025年7月4日、田村信也社長が朝日新聞の取材に応じ、米国への製品供給体制の見直しと東南アジア・中南米を軸とした生産最適化の方針を明らかにした。
TOTOは、1917年創業の衛生陶器メーカーで、国内におけるトイレ・浴室機器分野のトップブランドとして知られる。便器や洗面台、ウォシュレットを中心に、住宅設備機器や環境配慮型商品の開発・販売をグローバルに展開。特にアジア・北米・欧州などで積極的な現地展開を行っており、2024年3月期の海外売上比率は約35%に達している。持続可能な水資源の活用や環境対応技術でも業界をリードし、近年はIoTを活用した住宅ソリューションへの取り組みも進めている。
田村社長が今回言及したのは、米国が再び保護主義に傾いた際の影響を見据えたサプライチェーン戦略である。特にトランプ氏が再選された場合、2024年の選挙公約に盛り込まれた「全輸入品に対する10%関税」や、中国製品への60%関税といった政策が現実味を帯びており、日本企業にとって無視できない経済的リスクとなっている。
こうした中、TOTOはすでに米国向け製品の半数以上をメキシコで生産しており、さらにベトナムなど東南アジアからの供給体制も強化しているという。地域ごとに異なる貿易条件や関税制度に対応するため、製品ごとに最適な生産・輸出ルートを設計する「分散生産体制」を軸に据えている。
田村社長は「どの地域が対象になっても耐えられるよう、どこでもモノが作れる体制を構築している」と述べ、特定国への依存から脱却するリスクマネジメントの重要性を強調。単なる生産移転ではなく、地域ごとに高度な品質管理体制を確立し、ブランド価値を維持したまま柔軟な供給を可能にする構えだ。
また、製造拠点の選定においてはコストだけでなく、輸送インフラや現地人材の技術習熟度、地政学リスクも総合的に勘案しているという。メキシコにおいては北米自由貿易協定(USMCA)の恩恵を受けながら、米国本土への迅速な供給を実現。一方、ベトナムは高い技能レベルと相対的なコスト優位性から、生産機能の中核を担っている。
製造業を取り巻く国際環境が複雑さを増す中で、TOTOの取り組みは「グローバルで戦うための地政学対応型経営」の一例といえる。米国市場への依存度が高い企業にとって、トランプ再登板はリスクであると同時に、供給体制を見直す好機とも捉えられており、今後も同様の動きを加速させる企業が増えていく可能性がある。
製品の品質やデザイン性のみならず、安定供給という観点でも信頼を築いてきたTOTO。田村社長の言葉からは、変化に応じてしなやかに形を変える製造業の強さと覚悟がにじんでいるようだ。