価格転嫁に成功する中小企業の共通点が経産省調査で明らかに
2025年6月20日に経済産業省が公表した調査結果によって、中小企業における「価格転嫁力」の格差が顕在化してきた。原材料費やエネルギー価格の高騰が長期化するなかで、それらのコスト上昇分を取引価格に反映できる企業と、できない企業との間で「二極化」が進行しているという。
今回の調査は、全国の中小企業を対象に行われたもので、原材料や物流、人件費といったコストの上昇に直面する企業の対応実態を把握することを目的としている。その結果、仕入れ価格の上昇に対して「ある程度転嫁できた」「全額を転嫁できた」とする企業は一定数存在する一方で、「転嫁できなかった」「交渉の余地がない」とする回答も依然として多く寄せられた。
この傾向は、業種や地域といった単純な属性では説明しきれず、企業ごとの「交渉力」や「取引構造の柔軟性」、あるいは「供給の安心感」を顧客にどう示せるかといった経営姿勢の差が明暗を分けていると分析されている。
とりわけ、価格転嫁がうまくいっている企業には、いくつかの共通点がある。たとえば、仕入れコストの変動や原価構造の開示を通じて、取引先に納得感のある説明を行う仕組みを整えていたり、品質や納期に関するデータを数値化して「選ばれる理由」を提示できているケースが多い。また、特定の顧客や仕入先への依存度を下げ、取引先の分散を進めることで、価格交渉の主導権を確保する取り組みも功を奏しているようだ。
一方で、価格交渉が難航している企業のなかには、「長年の慣習により価格交渉そのものがしづらい」「顧客との力関係で価格を上げることができない」といった悩みを抱えるケースが多い。中には、原材料価格の高騰に耐えかねて、赤字覚悟での納品を続ける企業もあるとされ、収益力の低下が経営を圧迫している実態も浮き彫りになっている。
こうした課題に対して、政府も一定の対応を進めている。経済産業省は、価格交渉の活性化を目的とした「価格交渉促進月間」や、企業間の共通理解の形成を支援する「パートナーシップ構築宣言」といった施策を推進しており、これまでに数千社が同宣言に参加している。ただし、実効性を高めるためには、支援制度の存在をより多くの企業に周知し、個別の取引構造に応じた実践的な支援を拡充する必要があるという声もある。
日本経済の供給力を下支えする中小企業が、安定的に事業を継続していくためには、単なる価格転嫁の可否ではなく、「選ばれる企業」としての存在価値を取引先に示し続けられるかが問われている。価格交渉を一時的な対応とせず、経営戦略の中に組み込む構造的な見直しが、これからの企業経営における鍵となりそうだ。