日産が社債で8600億円を調達 成長投資と財務基盤の強化へ

日産自動車株式会社が2025年7月11日、米ドル建ておよびユーロ建ての普通社債(Straight Bond、以下SB)と、ユーロ建て転換社債型新株予約権付社債(Convertible Bond、以下CB)を発行し、総額約8,600億円の資金を調達したと発表した。調達資金は既存債務の借り換えや、将来の成長戦略に向けた研究開発費用などに充てられる見通しだ。
日産自動車は、国内外で事業を展開する大手完成車メーカー。1933年の創業以来、グローバル市場において多様な車種と技術を提供してきた。近年はEV(電気自動車)や自動運転領域での技術投資に注力しており、カーボンニュートラル対応やソフトウェアを中核とした次世代車両「SDV(Software Defined Vehicle)」の開発を強化している。また、2024年には中期経営計画「The Arc」を発表し、2030年までに16車種のEV投入とグローバルでの収益性改善を掲げている。
今回の調達は、SBで約6,600億円、CBで約2,000億円、合計8,600億円という大規模なもの。SBの手取金は、今後の事業運営費用や、2025年度に償還を迎える既存社債の借り換えに活用される。一方、CBにより調達した資金は、電動化技術やSDVの開発費用に充てられる予定であり、同社が中長期的に掲げる成長戦略の実行を支える資金として位置付けられている。
この社債発行は、日産が進める経営改革「Re: Nissan」および中期戦略「The Arc」の実現に向けた資本市場での信頼構築の一環とみられる。再建フェーズからの脱却を図る中で、グローバル市場における競争力の強化と、財務基盤の安定性を両立させるための施策と位置づけられている。
注目すべきは、発行された債券の多くが中長期債で構成されている点だ。SBは4年から10年の償還期間に設定され、CBについても長期的な成長資金として活用される計画となっている。日産は本社発表で、「国内外の投資家から強い需要を得た」と述べており、特にESGや脱炭素をテーマとする海外投資家の関心を集めたことも明かされている。
世界的なEVシフトの加速と、サプライチェーンの再編が進む中で、自動車業界にはかつてない規模の設備投資やソフトウェア開発が求められている。日産は、今後5年間で約2兆円規模の成長投資を見込んでおり、その資金調達基盤を固める今回の動きは、経営の持続可能性と技術革新の両立を意図したものであると読み取れる。
業界関係者の間では、今回の社債発行によって日産が将来的なM&Aや海外拠点の再編にも柔軟に対応できる体制を整えつつあるとの見方も出ている。とりわけCBは株式転換による資本調達の余地を残すため、株主との対話や市場評価に応じて財務戦略を調整できる点も評価されている。
資金の調達環境が不透明さを増す中で、グローバル資本市場からの支持を得て大規模なファイナンスを実現した日産。その背景には、過去数年間の構造改革と業績改善の積み重ねがあるといえそうだ。再建から成長フェーズへと舵を切る日産の次なる展開に、金融市場も静かに期待を寄せている。