TICOの完全子会社化をめぐる買収案に株主から反発の声

トヨタグループの中核を担う株式会社豊田自動織機(TICO)の完全子会社化に向けた買収計画が、国内外の株主から強い反発を受けている。今回の買収は、トヨタ自動車およびトヨタ不動産、そしてトヨタ自動車会長である豊田章男氏個人の出資によって構成されたグループにより進められており、総額約4.7兆円規模とされる。
買付価格は1株あたり16,300円とされ、市場価格に対するプレミアムは約23%にとどまる。この水準に対して、国内外の機関投資家をはじめとした少数株主からは「著しく低い」との批判が寄せられており、より妥当な水準としては20,000円以上を求める声も多い。実際、英Zennor Asset Managementや香港のOasisなど、株主側のアクティビストが複数のメディアを通じて異議を表明している。
加えて、TICOが保有する不動産資産の評価に対する透明性の欠如も、株主の不信感を呼んでいる。簿価上1.5兆円に上るとされる不動産には、未評価の含み益が多数存在するとの見方が強く、それが今回の買収価格に十分反映されていないという指摘がなされている。
今回の取引では、買収主体に豊田章男氏が個人で出資している点も焦点となっている。同氏は約10億円を拠出し、トヨタ不動産とともにトヨタ自動車の出資(優先株式で約7,000億円)を受けて、TICOを非上場化する意向を示している。ただし、この構図が利害関係の複雑化やコーポレートガバナンス上の懸念を生む要因となっており、「少数株主の利益が十分に考慮されていないのではないか」とする批判が広がっている。
6月上旬に開かれた株主総会では、質疑応答が2時間以上に及ぶ異例の展開となった。複数の株主からは「価格が著しく安い」「なぜこのタイミングでの非公開化が必要なのか」といった疑問が噴出したという。ある出席者は、「買収後にTICOが実質的にトヨタの自動車部品部門として吸収されるのではないか」との懸念を示した。
東京証券取引所は、こうした過小評価による買収提案が少数株主に不利益を与えることを懸念し、今夏以降の新ルール導入を見据えて対応を進めている。このTICO買収案件は、その試金石としても位置づけられており、日本企業のコーポレートガバナンス改革の真価が問われる事例として注目されている。
今回の買収が成立するには、対象株主の過半数による応募が必要であり、トヨタグループ側はすでに約39%の株式を取得しているとされる。今後、反対株主がどのような行動を取るかが注目されるほか、本件を契機に企業買収をめぐる制度や慣習の見直しが加速する可能性もある。
豊田章男氏のリーダーシップが再評価される一方で、少数株主の利益保護や企業の持続的な信頼性といった観点で、日本の資本市場の在り方が改めて問われる局面となりつつある。