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“職人芸”の限界を超える──AI×再現性で挑む人材紹介業の革新者・吉村直樹

「この人の紹介なら間違いない」そんな“職人芸”に頼ってきた人材紹介の世界に、いま大きな転換の波が訪れている。属人的なスキルへの依存から、再現性ある仕組みへ。人材業界特化型AIというツールを武器に、人材業界に新たなスタンダードを打ち立てようとするのが、株式会社AO代表の吉村直樹氏だ。

大学時代から一貫してキャリア支援の現場に身を置いてきた吉村氏は、なぜ“AI×人材”というテーマに挑むのか。そして、これからの人材紹介ビジネスはどこに向かうのか。
起業家や経営者が自社の変革に向き合うヒントが、この対話の中にあるだろう。

【プロフィール】

吉村 直樹氏 (よしむら・なおき)

株式会社AO 代表取締役

アクセンチュアにて経営コンサルタントとして活躍した後、レイスグループのスカウト事業責任者、インターワークスの人材紹介事業管掌取締役として東証一部上場を果たし、プロフェッショナルフリーランサーの紹介事業を行うスマートエージェンシー取締役を経て、 株式会社 AOを設立。

「納得して選んだ道でこそ人は力を発揮する」大学時代から続く問い

吉村氏がキャリア支援の世界に足を踏み入れたのは、大学時代に立ち上げた就職支援団体が原点だ。延べ500人以上の学生と向き合う中で、ある確信が生まれたようだ。

「『人は納得して選んだ道でこそ力を発揮する』この言葉を私は、現場で何度も目にしてきました。」

一方で、支援する側の資質や経験により、アドバイスの質にばらつきが出る現実にも直面したと吉村氏は語る。「支援者の価値観や経験によって、判断や導き方が大きく異なってしまう。この課題は、今の人材業界にも色濃く残っています。」

経験の浅いコンサルタントが、求職者の人生を左右する意思決定を担っている。だからこそ、「人の想いに寄り添う力」と「支援の再現性」の両立が必要だと感じたという。

経験に依存しない支援──AOメソッドが拓く新たなスタンダード

そうした課題意識から生まれたのが、AOが展開する独自の人材支援メソッドだ。
「AOメソッドの最大の特徴は、“人の感情に寄り添う力”と“AIによる再現性”の両立を仕組みとして実現していることです。」

従来の人材紹介は、コンサルタントの経験則や感覚に強く依存していた。そのため、成果に大きなバラつきが生まれていたという。AOメソッドは、それを打破する仕組みを構築している。

「業界をリードしてきた大手各社のトップコンサルタントたちのノウハウを型化し、それを教師データとしてAIに学習させています。“職人技”を再現可能な技術へと昇華したことが、私たちの強みです。」
属人的なスキルを、組織全体で使える“共通言語”へと変換する。その挑戦こそ、業界に風穴をあける試みとなっている。

「誰もがプロの対話を得られる社会」1on1 AIメンターがもたらす変革

AOでは現在、キャリア支援におけるもう一つの武器として「1on1対話型AIメンター」の開発にも力を注いでいるという。
「これまでの対話は、上司やメンターの資質に大きく依存していました。ですが私たちは、プロの問いかけや思考整理のノウハウを教師データ化し、AIによって再現できる仕組みをつくっています。
感情や価値観を整理する“人らしさ”を支えるAIが、キャリア形成をより自律的なものへと導いてくれます。」
実際に使ってみると、「こんな問いを投げかけられるのか」と驚くこともあるという。プロの支援者が経験則で磨いてきた“間”や“傾聴の技術”を言語化し、誰もがその恩恵を受けられるようにする。そこに、AOのテクノロジー活用の本質があるのだろう。

2025年、人材紹介の構造が変わる。再現性なき企業は淘汰される

これからの人材業界はどうなるのか。吉村氏は、2025年を分水嶺と見ているようだ。

「これからの人材紹介は、“担当者の力量”に依存する時代から、“仕組みと再現性”に基づく支援モデルへと大きく転換していきます。」
企業と求職者のニーズが高度化するなかで、AIによるマッチング精度の向上と業務プロセスの最適化は、競争力の源泉になるという。
「逆に言えば、この分野への対応が遅れる企業は、倒産や業態転換に追い込まれる可能性もある。2025年は、その命運が分かれる年になります。」と述べる。

「職人技を“型”に落とし込む」感情とテクノロジーの共存

それでもなお、人材業界には“人間らしさ”が必要だと吉村氏は語る。

「絶妙な背中の押し方や、言葉にならない感情の機微。そうした“職人技”には、単なる情報以上の価値があります。相手の呼吸を読み、沈黙に意味を与えるような支援は、データだけでは再現できない領域です。」

ただし、その技術が属人化してしまえば、継承も拡張も難しくなる。だからこそAOは、その“曖昧さ”にこそ挑んでいる。

「私たちは、プロフェッショナルが無意識にやっていたことを徹底的に言語化し、仕組みに落とし込んでいます。再現性を持たせることで、チーム全体として成果を出せる組織に変わっていくんです。」

一方で、すべてをAIに任せるわけではない。冷静で客観的なAIの視点に、人間の共感力が重なってこそ意味があるのだ。「AIの冷静な分析と、人間の共感力が融合された、新たなキャリア支援のスタンダードを私たちはつくっています。これは、テクノロジーの時代だからこそ実現できる“新しい人間らしさ”の形なのだと思います。」

「誰かに決めてもらうな」若手世代に贈る、キャリアとの向き合い方

最後に、柔軟な働き方を求める若手世代に向けたメッセージを尋ねると、吉村氏の答えはとてもシンプルだった。
「キャリアに正解はありませんが、『自分は何を大切にして生きたいのか』という軸を持つことが、何より大切です。」

SNSやネット上に情報があふれる現代。そんな時代だからこそ、自分自身と丁寧に対話することの重要性を語ってくれた。「誰かに決めてもらうのではなく、自分で選び、納得する。そのプロセスの中にこそ、人生を切り拓く力があります。」

『属人性を仕組みにする』これはどの業界にも通じるテーマだ。スキルや経験をどう言語化し、誰もが使える“型”にするか。それはまさに、経営や組織開発の核心といえる。

吉村氏の挑戦は、ただのAI活用にとどまらない。人間の温度感を損なわずに、いかにして再現性とスケーラビリティを両立するかという問いに対する、一つの答えなのかもしれない。