NEW

tamura

日本企業のM&Aが上半期で過去最大の約36兆円に到達

2025年上半期、日本企業によるM&A(合併・買収)総額が過去最大となる約36兆円(2,320億ドル)に到達したことが明らかになった。これは前年同期比で約2.7倍という急拡大であり、アジア地域全体のM&A市場の回復をけん引する結果となっている。企業価値向上を目指すガバナンス改革の機運や、国内外の投資家による活発な動きが背景にあるとされる。

象徴的な案件として挙げられるのが、トヨタグループやNTTによる戦略的な大型買収である。たとえば、トヨタ自動車傘下の自動運転技術開発企業が、欧州のAI企業を買収した事例では、モビリティ領域における技術優位性の確保が狙いとされている。また、NTTが米国のクラウドインフラ企業への出資比率を高め、グローバルでの競争力強化に乗り出している動きも注目された。

一方で、SoftBankグループによるOpenAIへの資金支援も話題となった。これはM&Aとは異なる形態ではあるが、生成AI分野における世界的リーダー企業との資本関係構築という点で、戦略的投資の一環と位置づけられている。SoftBankはかつての積極的な買収戦略から、より選択的かつ技術領域特化型の投資スタイルへとシフトしつつある。

こうした動きの背景には、岸田政権が掲げる「資産運用立国」や「企業統治改革」の影響も指摘されている。特に近年では、上場企業に対して資本効率の改善を求める東証の姿勢が強まり、ROEやPBRといった指標を意識した経営戦略の一環としてM&Aが活用されるケースが増加している。事業ポートフォリオの再編や、非中核事業の切り離しによるスリム化といった動きも、それを後押ししているようだ。

投資家側の視点からは、低金利環境の中でのリターン追求手段として、M&Aによる成長加速に注目が集まっている。PEファンドを含む国内外の機関投資家が、買収先企業の企業価値向上を前提とした中長期的な視野で案件に関与している点が、過去の短期的なマネーゲーム型M&Aとの違いを際立たせている。

アジア全体のM&A市場が中国の景気減速や規制強化で停滞する中、日本市場の存在感はむしろ高まっている。グローバル企業の本社機能やアジア統括拠点を日本に移す動きも相まって、日本企業の買収対象としての魅力が再評価されている側面もある。実際、北米や欧州の大手企業が日本市場を再注目しており、外資によるインバウンドM&Aの再活性化も視野に入りつつある。

今後もこのM&A活況が継続するかどうかは、為替動向や国際情勢の影響も受けると見られるが、企業側の戦略的M&A志向が強まっていることは確かだ。短期的な利益ではなく、中長期的な成長を見据えた「選択と集中」によって、日本企業の経営基盤がさらに磨かれていく可能性が高い。

M&Aが単なる買収手段ではなく、経営改革や成長戦略を体現する一手段として定着しつつある今、その質と深さが今後の企業価値を左右する重要な指標となりそうだ。