カケハシがシリーズDで140億円を調達 ゴールドマン・サックスがリード投資家として参画

医療業界のDXを推進する株式会社カケハシが、シリーズDラウンドにおいて総額140億円の資金調達を実施した。2025年7月8日に発表された資金調達ランキング(2025年6月分)において、同社の調達額は月間で最大規模となっている。今回のラウンドでは、ゴールドマン・サックスをリード投資家とし、既存投資家に加え新たな機関投資家も参画した。調達資金は、今後のM&A戦略やプロダクト・技術投資に重点的に活用されるという。
カケハシは、医薬品の処方・服薬支援におけるSaaSプロダクト「Musubi(ムスビ)」を中心に、調剤薬局向けの業務支援や患者の服薬データの活用による医療の質向上を目指すスタートアップ企業である。2016年の創業以来、「医療をつなぎ、医療をひらく。」をミッションに掲げ、調剤現場のオペレーションを効率化するだけでなく、医療従事者と患者のより良いコミュニケーションの実現にも注力してきた。
Musubiは、服薬指導における薬剤師の業務負荷を軽減し、同時に患者にとってわかりやすい情報提供を実現する電子薬歴・指導支援ツールだ。すでに全国の調剤薬局チェーンや地域密着型薬局を中心に広く導入が進んでおり、2024年時点で累計導入薬局数は3,000店舗を超えるとされる。また、処方データや服薬状況を解析することにより、疾患管理や重複投薬の防止、生活習慣病の改善提案といった応用も模索されている。
近年、医療分野では高齢化の進展と人材不足を背景に、調剤業務の効率化や患者中心の医療提供体制が求められており、デジタルツールの導入が急速に進んでいる。こうした潮流の中で、カケハシのMusubiは「現場発」のプロダクトとして高い現実性と再現性を備え、医療現場からの信頼を得ている。
今回のシリーズDラウンドでは、グローバルな投資銀行であるゴールドマン・サックスが主導した点も注目される。世界的に医療テックへの投資が活発化する中、日本発のSaaS企業が大型調達を実現したことは、国内医療スタートアップ全体への信頼感を押し上げる契機となりそうだ。発表によれば、今回の資金調達により、カケハシは今後の成長をM&Aによってさらに加速させると同時に、生成AIやデータ分析基盤といった先端技術への投資も強化していく方針だ。
加えて、調剤薬局という領域にとどまらず、医師や看護師、患者を含む医療エコシステム全体に価値を提供するプロダクト群の拡充も検討されており、医療現場のデジタル基盤づくりにおける“ハブ”としての役割を果たすことが期待されている。
これまでの累計調達額は200億円超と見られ、スタートアップとしては異例の規模に達した。医療制度の変革が求められる中、カケハシが次にどの市場へ歩を進めるのか。その一挙手一投足に業界内外の視線が集まっている。