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バイエル、創薬スタートアップ支援「Bayer Co.Lab Japan」を始動 神戸から全国へ、対話を軸に伴走

バイエル薬品は9月30日、東京・日本橋でプレスセミナー「日本の創薬イノベーションの飛躍への道」を開き、スタートアップ支援プログラム「Bayer Co.Lab」の日本向け新モデル「Bayer Co.Lab Japan」を始めると発表した。2018年から神戸で続けてきた施設中心の支援を、全国の研究者やスタートアップとの継続的な対話を軸にした形へ切り替える。後半のパネルディスカッションでは、VCや事業化支援の専門家、京都大学発スタートアップの経営者が、日本の創薬エコシステムの課題を語った。

新薬の7割は社外との連携から生まれる

ドイツ・バイエル社でリージョナル事業開発とBayer Co.Labを統括するフリードマン・ヤヌス氏は冒頭、2015〜2021年に米FDAが承認した医薬品の72%が、何らかの形で社外のイノベーションを取り入れていたというデータを紹介した。「科学の課題は複雑すぎて、もう1社では解けない」というのが同氏の見立てだ。

Bayer Co.Labは、バイエルが世界で運営するバイオ製薬スタートアップ向けのインキュベーター網だ。ベルリン、米ケンブリッジ、神戸、上海に拠点を持つ。スタートアップの海外展開を後押しする「Bayer Co.Lab Connect」も、日本や韓国、スイスなどで展開している。ヤヌス氏によると、現在36社が参加し、累計調達額は13億ドルを超えた。次の開発段階に進んだアセットも10を上回るという。

日本については「世界トップクラスのサイエンスを生む国」と評価し、ノーベル賞受賞者の多さを根拠に挙げた。バイエルの日本での事業は115年に及ぶ。2018年には神戸医療産業都市にインキュベーションラボ「コラボレーター神戸」を開き(2023年に「Co.Lab Kobe」へ改称)、iPS細胞由来の技術やエピジェネティクス、AIモデリング、DDS(薬物送達システム)、腎疾患の再生医療などの分野で、スタートアップや大学と組んできた。

Co.Lab Japanの中身とは:施設での支援から、全国での対話へ

新モデルを説明したのは、バイエル薬品の事業開発本部長、風間信宏氏だ。

同社は京都大学と2014年からプロジェクト単位の提携を重ね、2024年には戦略的包括提携を結んだ。風間氏は、iPS細胞研究の山中伸弥氏が語った「日本ではこの取り組みが国全体で進められてきたため、多くのプロジェクトが実施できた」という言葉を引き、「神戸で始めたことを日本全国に広げたい」と話した。

Co.Lab Japanは、特定の施設を中心にした従来の「拠点型」から、全国のイノベーターと対話を続ける「伴走型」へ軸足を移す。東京と神戸を戦略ハブとし、京都をはじめとする大学のネットワークとも連携する。

柱は「共創サイクル」と「Bayer Co.Labメンバーシップ」の二つだ。共創サイクルは3段階で進む。まずスタートアップや研究者と話す「Office Hours」があり、そこから事業化を具体的に議論する「Dialogue Modules」に移る。最後が、研究開発・事業開発・コマーシャル各部門の専門家と集中的に議論する招待制の「Deep Dive Day」だ。

「イノベーションを早く見つけ、早い段階から専門家が関わって、事業化までの道筋を一緒につくる」と風間氏は話す。

日本の創薬スタートアップに足りないのは「実行力」

パネルディスカッションには風間氏のほか、ガラサス合同会社代表の橋本千香氏、サイセイベンチャーズ合同会社パートナーの齊藤光氏が登壇した。スタートアップ側からは、リジェネフロ代表取締役CEOの森中紹文氏と、イクスフォレストセラピューティクス創業者で取締役会長・CBOの樫田俊一氏が加わった。

日米の創薬エコシステムを見てきた橋本氏は、政策の後押しもあって、日本のスタートアップの数は世界水準に近づいてきたと見る。一方で、ライフサイエンス系の教授がそれぞれベンチャーを立ち上げ、「先生一人・弟子一人」で回している会社が多い点を課題に挙げた。研究シーズを患者に届く薬に仕上げるには、事業化のストーリーが要る。それは研究者一人二人で描けるものではなく、組織として取り組むべき課題だと指摘した。

2015年に製薬会社からVCへ転じた齊藤氏は、当時と比べて製薬会社からフィードバックをもらえる機会が増えたと話す。AMEDの「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」をはじめ、政府の支援も大きく改善したという。それでも「創薬に投資するリスクマネー、洗練された資金の出し手はまだ足りない」と話した。

日本に一番必要なものは何かと問われると、両氏はそろって「実行力」と答えた。創薬や薬事、資金調達を経験した人材をどう確保し、知見をどう共有するかが鍵になるという。

これを受けて風間氏は「スタートアップのすごいサイエンスから学びたいし、同じ目線で支えたい」と応じた。目指すのは上から教えるメンターシップではなく、本音でフィードバックし合える関係だという。

京大発スタートアップ2社が語る、製薬大手とつながる価値

XFOREST Therapeutics(イクスフォレストセラピューティクス)は、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の研究成果をもとに2020年5月に設立された。RNAの立体構造を標的にした低分子創薬に取り組む。病気の原因となるタンパク質を狙う従来の薬では手が届かなかった疾患にアプローチできるのが強みで、大塚製薬など国内の製薬会社と共同研究を進めてきた。樫田氏は「創業がコロナ禍と重なり、海外の製薬会社と直接会う機会が少なかった」と振り返る。Bayer Co.Lab Japanのような対話の窓口への期待も語った。

RegeneFlo(リジェネフロ)も京大CiRA発のベンチャーだ。iPS細胞からつくった腎臓の細胞を使い、創薬と再生医療の両面から腎疾患に取り組む。指定難病ADPKD(常染色体顕性多発性嚢胞腎)の治療薬候補は、前期第2相試験の最終観察を終えてデータ解析を進めている。慢性腎臓病向けの細胞医薬も開発中で、アストラゼネカなどとの共同研究にも取り組む。

森中氏は、Bayer Co.Lab Connectを通じて、基礎研究から臨床開発、薬事、販売戦略まで一貫した支援を受けたと話す。「信頼できる紹介者がいたので、ボストンをはじめ海外の投資家とスムーズにつながれた」。

「10年後、日本は世界をリードできるか」

セッションの最後に、「日本は10年後、創薬で世界をリードできるか」という問いを登壇者全員に投げかけた。

橋本氏は「ベンチャーを支えるネットワークづくりが大切」、齊藤氏は「知識と人、経験をつなぎ、人を育てる場としてCo.Labが機能していく」と答えた。樫田氏は「連続して成功する起業家が出てくること。アカデミア発の成功パターンを自分たちが示したい」と話し、森中氏は「会社をつくる段階から、グローバルを見据えた組織と事業計画が必要だ」と述べた。風間氏は「心から、日本は世界をリードできると信じている」と語り、「共創のサイクルを一つずつ積み上げ、スタートアップや大学の先生方に貢献したい」と締めくくった。

質疑応答では中国の話題も出た。中国のバイオ産業の急成長について問われたヤヌス氏は、中国は速く、安く、品質も保ちながら「ファストフォロワー」として開発を進めてきたと分析し、「そのやり方は我々も学ぶべきだ」と述べた。

政府は「骨太の方針2025」で創薬・先端医療を戦略17分野の一つに位置付けている。こうした政策面の追い風について聞かれた風間氏は、「人・モノ・カネのすべてで手厚い支援がある」としたうえで、「この機運のなかで、どれだけ幅広く、継続して取り組めるかが重要だ」と答えた。

事業化の経験が足りない研究者に、製薬企業が早い段階から関わる。Bayer Co.Lab Japanは、パネルで繰り返し指摘された「実行力」の不足を、対話の積み重ねで補おうとする試みだ。神戸で8年かけて築いてきた関係を全国に広げ、日本発のサイエンスを世界の患者に届ける仕組みにできるか。その成否は、ここから始まる一つひとつの対話にかかっている。