中小企業のAI活用はなぜ「チャットどまり」で止まるのか クラウドワークスが示した壁と外部人材という選択肢
AI人材のマッチングおよびDX・AXコンサルティングサービスを展開する「クラウドワークス」は、中小企業のAI活用をテーマにしたセミナーを開催した。
全国の中小企業(従業員5〜299名)の経営者・役員・部長クラスを対象にした調査の結果、AI導入支援の現場事例、有識者とのクロストークを通じて示されたのは、「AIによって人材が不要になる」という見方とは異なる論点だった。中小企業のAI活用は着実に進む一方、多くが「チャットどまり」で足踏みしている。同社は、そこから抜け出す鍵は「AIに詳しい人材」だと語った。

「AIクラウドワークス」を8月に本格始動、狙うは既存企業400万社
代表取締役社長兼CEOの吉田浩一郎氏は「日本の既存企業400万社のAI化を加速させるAI実装インフラ構想」を掲げた。クラウドワークスはこれまでフリーランス特化のマッチングプラットフォームとして成長してきたが、AIの浸透を機にグループ全体で派遣・正社員紹介・請負開発(アプリ開発・運用など)へと事業領域を広げている。
今年3月にスモールスタートしたAI導入支援サービス「AI-BPO」を経て、8月20日に本格ローンチした「AIクラウドワークス」は、事前登録のAI人材が1万名を超え、AI-BPOを含めて33業種・17業務領域の相談対応実績を持つ。受注実績は5万円から2,000万円まで幅広く、大手コンサルティングファームでは受けられない小口案件にも応じられる点を強みとする。
吉田氏は「自分の社長業務のAI実装を頼める人材が社内にいない」という経営者自身の悩みを紹介し、クラウドワークスが2012年のサービス開始から個人に支払ってきた報酬は累計709.6億円(税込、2026年9月15日時点)にのぼると明かした。

導入企業の事例に見る、AI活用5段階と業務自動化の中身
続いて、AIクラウドワークス責任者の九鬼隆剛氏が、企業のAI活用を「認知・関心」から「個人活用」「組織利用」「業務代替」、そして複数のAIが連携して業務全体を最適化する「意思決定・全体最適(AIオーケストレーション)」まで5段階に整理して紹介した。
具体例として、まず建設資材卸売業 (従業員10〜100名)では、電話・FAXでの受注をLINE化し、LINEで受けた注文内容をAIが過去の受注実績や在庫情報と突き合わせて最適な資材と金額を算出し、見積書を自動作成する仕組みを導入。人が見るのは送付前の最終確認だけとなり、受注業務の工数を20%削減した。
地方の外壁塗装業では、週10時間かかっていた集客用ブログの運用(ネタ出し・執筆・投稿)をAIで自動化し、週2時間まで圧縮した。
さらに、従業員10名以下の建築設計事務所では、5年に1度・約2か月かかる長期修繕計画の更新業務のうち、最も工数のかかる修繕履歴入力と概算工事費内訳書の転記にAIを導入し、半月かかっていた作業を2日に短縮したという。
九鬼氏は、会社全体の業務を対象にAI化できるものをすべてAI化する「マルっとAI」というサービスも展開すると語った。
AI利用企業59.6%、うち8割が「チャットどまり」
セミナーでは、慶應義塾大学総合政策学部准教授・清水たくみ氏を招いたクロストークも実施された。クラウドワークスが全国の中小企業(従業員5〜299名)の経営者・役員・部長クラス4,172名を対象に実施した調査によれば、AIを業務に利用している企業(個人活用以上)は59.6%にのぼる。しかしそのうち80.9%はチャットや個人利用にとどまっており、業務の自動化まで進んだ企業は19.1%。複数のAIが連携する全体最適の段階に達した企業は、回答者全体のわずか1.8%にすぎない。
清水氏は、この数字が総務省の調査(55%程度)とも近い水準にあると指摘しつつ、米国・ドイツ・中国では利用率が9割を超えるとして日本との差を挙げた。また、IT投資額と収益性は必ずしも直結せず、業務プロセスやビジネスモデルの変化が伴って初めて成果につながるとした。

導入の壁は「推進リーダー不在」、相談の多くは社長本人から
さらに調査では、AI導入の障壁として、AI未導入企業は「費用対効果が不透明」(77.5%)、AIを利用している企業は「セキュリティ対応」(チャットどまり企業79.5%、業務自動化済み企業67.6%)がそれぞれ最多だった。
一方、活用レベルを問わず、すべての層で2位に入ったのが「AIに詳しい推進リーダーの欠如」だった。チャットどまり企業(74.5%)と業務自動化済み企業(54.0%)の差は20.5ポイントで、比較した6項目の中で最も大きく開いていた。
九鬼氏は「中小企業に専任のAI推進リーダーを置く余裕はなく、問い合わせのほとんどは社長本人から来る」と明かす。実際、AI推進者が「足りている」と答えた企業はわずか11.1%(チャットどまり企業5.5%、業務自動化済み企業でも26.1%)にとどまる。AIを業務システムに連携させる工程では、自社の人員だけで対応できる企業はツールの連携設定で21.7%、不具合の調査・修復で17.7%にとどまった。連携(※)の工程を最も困難な工程に挙げた企業に理由を聞くと、上位は「通常業務が優先で時間がない」(45.5%)、「知識・スキルのある人材がいない」(41.7%)だった。
※「ツールの連携設定」と「不具合の調査・修復」

AI推進者が足りない企業は、外部人材をどう使うか
AI推進者の確保を検討したことがある379名に手段を聞くと、採用・育成・外注のいずれも、半数近くが「うまくいかず中断」または「検討したが取り組んでいない」と答えた(採用47.5%、育成45.1%、外注48.3%)。外注は取り組み済みが18.7%と最も低く、33.0%が「検討したことはない」と答えている。
一方で、業務自動化済み企業の26.1%(全体最適に達した企業に限れば32.9%)はすでに外部のAI人材を業務ごとに活用している。チャットどまり企業の7.0%と比べて3.7倍で、活用レベルが上がるほど外部人材の活用率も高まる傾向が明らかになった。
清水氏は、デジタル成熟度の初期段階にある企業ほど外部の力を借り、徐々に内製化していくのが一般的なパターンだと説明。九鬼氏も「AI実装ができる人材(いわゆるFDE)は大企業でも採用が難しい希少人材」とした上で、「どの業務をAI化するか」の設計と運用は自社が担い、実装だけを外部に切り出す役割分担が現実的だと語った。
利用企業の反応と、日本のAI活用が遅れる理由
質疑応答であがった「AIクラウドワークスの利用企業の評価」について、九鬼氏は「自社では実装できないという声とともに、感謝の言葉やリピートが多い」としつつ、「1社ごとの導入に時間がかかり、より多くの企業に届けきれていないのが自社の課題」と率直に答えた。
また「なぜ日本のAI活用は他国より遅れているのか」という質問には、清水氏が2つの要因を挙げた。ひとつは変化に伴うリスクを事前に潰そうとする傾向、もうひとつは利用層の違いだ。日本では中間管理職の利用が先行する一方、海外調査では経営層の利用率が最も高い。トップのコミットメントの強さが浸透スピードを左右しているという。
クロストークの総括で、清水氏は「技術の変化は速く、人と組織の変化はそれよりゆっくりと進む。技術と組織・人材をいかに融合させ、そのギャップをリードできるかが今後の経営の焦点になる」とした。
吉田氏は、「AIで人がいらなくなる」という論調への反証を語った。ゼロから作る企業は人を雇わずAIと業務委託で回せる一方、既存企業はむしろAI人材を必要としている。それが吉田氏の見立てだ。
