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2030年HIV流行終結|写真と映像で「知る」から「できる」へ、6団体が新プロジェクト始動

医療・支援・啓発の異なる分野から6団体が協力し、2030年までのHIV流行終結を目指す新プロジェクト「知ることから、できることへ。HIV流行を終わらせよう。」が始動した。

ぷれいす東京、はばたき福祉事業団、魅惑的倶楽部、ZEL、ギリアド・サイエンシズ、金沢レインボープライドの6団体が協力し、写真・映像・イベントなど多岐にわたるアクションを展開していく予定だ。

スペシャルパートナーにはフォトグラファーのレスリー・キー氏が就任。HIV流行終結への賛同者をレスリー氏が撮影。その写真をHIVにまつわる疑問と答えとともに支援コンソーシアム「GAP6」のウェブサイトへ掲載し(5月末ごろ公開予定)、それを目にした人がSNSでさらに発信することで賛同の輪を広げていく。

2030年という期限まで5年を切った今、「知る」だけでなく「アクションを起こす」ための社会的なムーブメントの創出を目指す。

2030年まであと5年——なぜ今、動かなければならないのか

UNAIDS(国連合同エイズ計画)は、2030年までのHIV流行終結を世界目標として掲げている。この目標は、新規HIV感染者数やエイズ関連死亡者数を大幅に減少させ、HIVがもはや重大な公衆衛生上の脅威ではなくなる状態を指す。

達成の指標として設けられているのが「95-95-95(トリプルナインティファイブ)」と呼ばれる数値目標だ。HIV陽性者のうち95%が自身の感染を知っていること(診断率)、診断された人の95%が治療を受けていること(治療率)、そして治療を受けている人の95%でウイルスが抑制されていること(ウイルス抑制率)。この3段階すべてで95%の達成を求めるものである。

日本においては治療率・ウイルス抑制率は95%を達成しているものの、最初のステップである診断率がいまだ90%に届いていない。検査を受けずにいる、あるいは感染を知らないままでいる人々が依然として多いという深刻な状況が続いている。

こうした課題を背景に、今回の6団体が新たな取り組みを始めるに至った。

レスリー・キー氏が撮る「賛同の肖像」

プロジェクトの核となるのは、レスリー・キー氏が撮影するフォトシリーズだ。

著名人・インフルエンサー・賛同者がレッドリボンを巻いたテディベアを抱え、HIV流行終結への支持を写真という形で表明する。撮影された写真はウェブサイトやSNSで公開される予定で、正しい知識の普及とビジュアルによる発信を同時に進める。

今年3月の東京開催を皮切りに、今後は大阪・福岡でも展開される予定だ。また、プロジェクトの一環として、シティポップの名曲を用いたミュージックビデオの制作も進んでいる。

レスリー・キー氏のコメント

レスリー・キー氏は、昨年12月にプロジェクトへの参加を打診された際、自身もHIVが「もはや死に至る病気ではない」という現状を正確には把握していなかったと率直に明かした。

「私さえ知らなかったのだから、もっとたくさんの人も知らないんじゃないかと思った。写真には魔法がある。1枚の写真が、見た人が何か考えるきっかけになると信じています」と話した。

レスリー氏は、LGBTQ+の権利向上を目的としたプロジェクトにも携わってきた。当時は賛同企業も限られていたが、継続的な発信を重ねた結果、2026年現在では全国93%の自治体でパートナーシップ制度が整備されるまでに至っている。その経験が、「写真と継続的な発信が社会を変えられる」という確信につながっている。

テディベアのビジュアルについては、「みんなが親しみを持てる写真を通じて、HIVの疑問に答えるキャラクターとして機能させたい」と語った。

専門家・支援者が明かす、流行終結への課題と本音

キックオフイベントでは、医療者・支援団体・当事者の立場からそれぞれ登壇者が現状と課題を語り合うパネルディスカッションが行われた。

認定NPO法人ぷれいす東京 代表 生島嗣氏は、HIV陽性者への電話相談などを担うNPO代表として、世代間の「リアリティの差」を課題として挙げた。

「若い世代の検査率は30代・40代に比べてやや低い傾向がある。SNSで発信しても、興味・関心が近い人にしか届かない。今回のプロジェクトが、これまで一度もHIVを自分のこととして考えたことがない人に届けば素晴らしい」

認定NPO法人魅惑的倶楽部 理事長 鈴木恵子氏は、静岡県・浜松市に拠点を置くため、地方都市ならではの課題として「HIVは自分には関係ない」という意識の根強さを挙げた。

「都市部と異なり、地域での顔が見える関係が検査へのハードルを高めることもあるが、逆に顔が見えるからこそできる連携もある」と語った。

社会福祉法人はばたき福祉事業団の後藤智己氏は薬害エイズ事件の和解から30年という節目の年を迎えた今年、改めて歴史を伝えることの重要性を語った。

被害者約1,400名〜1,500名のうちすでに500〜600名弱が亡くなっており、遺族からは「忘れないでほしい」という声が上がっているという。

「30年前のような露骨な差別はなくなったが、スティグマは形を変えて残っている。50~60代になった被害者が福祉や介護サービスを利用しようとする際に、HIV陽性であることが障壁となっているのが今の最大の課題です」と語った。

2030年HIV流行終結へ|今後の展開と参加の呼びかけ

プロジェクトは2026年内を通じて継続される予定で、東京に続き大阪・福岡でも撮影イベントを開催する計画だ。東京のキックオフ当日だけで約140名が参加し、写真撮影とともに賛同の輪を広げた。

医療・支援・メディア・エンターテインメントという異なる分野が交差したこのプロジェクト。「知る」ことを出発点に、社会全体がアクションを起こすムーブメントへと発展することが期待される。