「国際リニアコライダー」(ILC)という言葉を聞いたことがあるだろうか。
実は、宇宙誕生の謎に迫ることができる重要な施設であり、大きな可能性を秘めている。
「国際リニアコライダー」(ILC)とは
ILCは、国際協力によって設計開発が推進されている次世代の「直線型衝突加速器」のこと。国内外の研究者が進める国際プロジェクトで、全⻑数十kmの直線状の地下トンネル内にて、「電子」と「陽電子」を光速に近い速度まで加速・衝突させてその反応を測定する実験施設だ。
大きなエネルギーを一点に集中させることにより、宇宙誕生の「ビッグバン」が起きた直後の状態を再現するという壮大な計画で、宇宙誕生から1兆分の1秒後の状態、「ほんの一瞬」だけビッグバンを再現し観測することで、宇宙や物質の誕生という人類が⻑年抱いてきた謎を解明することが可能になるという。
また、これにより、世界的な研究者による科学の探求、新たな技術の誕生、地域活性化といった経済波及効果も期待されている。そんな宇宙誕生の謎に迫る「ILC」建設の有力候補地が、岩手・宮城両県にまたがる「北上山地」だ。10月上旬、ILCの誘致に向けた岩手県の取り組み「#ILCフレンズキャンペーン」がスタートし、お披露目となるメディア発表会が都内で開催された
なぜ岩手県が有力な候補に?
発表会に登場した、岩手県の佐々木淳副知事は、北上山地に注目が集まる理由と、ILC誘致について以下のように話した。
93%が謎と言われている宇宙の謎を解明する大型の国際プロジェクトがILC。ILCは、全長数十kmの直線状の地下トンネル内で、電子と陽電子を光速に近い速度まで加速し衝突させ、その反応を測定する実験施設。これには、外部からの影響が少なく、安定した空間が必要。そこで、何千万年もかけてゆっくりじっくり固まった、大きな岩盤のような北上山地が候補地として国内外の研究者が評価している。
ILCの誘致について、日本がノーベル賞も多く受賞している素粒子物理学で世界をリードし、ILCのプロセスや研究成果などにより、さらなるイノベーションが起こることなどは意義がある。国際紛争が各地で起こる昨今、国籍を超え世界中の研究者が日本に集まること、その意味も大きいと考えている。
ただし、ILCは県内では関心が高いが全国ではまだまだだ。そのため、より関心を集めるため今回のキャンペーンを始めた。
「人類誕生以来の宇宙に関する疑問に化学の力で迫ることができる」
発表会では、世界的にも著名な物理学者 村山斉特別教授がリモートで参加し、特別講演を行った。(カリフォルニア大学バークレー校教授・東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構特別教授 )
一番身近な「加速器」は電子レンジで、山手線1周くらいの「加速器」を使えばビッグバンが再現できることがわかってきた。「ビッグバンをやりなおす」つまり、「加速器」は宇宙を作りなおすことができる装置となる。今ビックバンを望遠鏡で観測できるのは表面だけ(38万年前まで)。それ以前の様子は見ることができない。そのために必要な装置がILCだ。
現在、アメリカが日本と共同でこの計画を遂行していく動きがあり、ILC実現を目指している。さらに、質疑応答では、世界からみたILCの状況について、以下のように述べた。
質問:アメリカでILCに関心があるのであればアメリカで建設すればいいのでは?
回答:アメリカでは加速器を使った研究以外でも様々なニーズがある。それらを全部含めて検討していくとILCを作る予算がなくなる。その結果、日本もしくはヨーロッパでの実現に加担していく方針になった。
質問:アメリカの他の宇宙研究よりもILCは、優先順位は高くないといった見解なのか
回答:そういったことはなく、重要性は分かっているが、総合的にみると予算が出ない。だが日本でもヨーロッパでもやらないとなった場合はアメリカで再検討するということが決まっている。
ILCへの期待についてや国民の理解の重要性についても言及された。
質問:日本政府、研究者コミュニティはどういった期待をしているのか。
回答:長く議論されているが、政府からよしやろうといった声が出てこない。国民からの理解が必要と言われているため、今回のイベントなどを通して国民の知識が広まればと思っている。
質問:LCが実現すれば世界の研究者が集まってくる。周囲の子供などへの波及効果はどうなると考えているか。
回答:人種の坩堝(るつぼ)になって新しいアイデアなどが生まれる。人種やアイデアが接触することで、新たなイノベーションが生まれると思っている。
機運醸成のため、「♯ILCフレンズキャンペーン」が始まる
岩手県 佐々木 淳 副知事、村山斉特別教授が示すように、ILCには、多くの人が関心を持つ必要がある。そのために、「♯ILCフレンズキャンペーン」が始まる。
このキャンペーンは、岩手県がILC日本誘致実現に向けた国⺠的な機運醸成を目的に実施するキャンペーン。ILCフレンズのリーダーにはタ レントの小島よしおさんが就任し、活動を盛り上げる。キャンペーンでは小島よしおさんが出演する動画で、ILCの解説、 タイアップ商品の紹介などで情報発信を行い、ILCフレンズの輪を広げる。
いかがだっただろうか。
ILCについては、引き続き誘致の検討が進んでおり、その動向にも注目だ。